唐突ではあるが、ある日の飲みの席で「ピエール エルメ の ドゥミルフィーユは素晴らしいよね」という話になった。
はじめは、何の話をしているのか全くわからなかった。外車のことなのか、ブランド衣類のことなのか。あるいは、何かのスポーツのどこかのクラブチームの選手のことなのか、そんなことを考えながら話を聞いていた。
答えは、表参道のお洒落なケーキ屋さんの、とあるケーキの話であった。もはやそれは、マニアレベルの話なんじゃないかと、僕なんかは思ってしまう。
「ピエール エルメ」なんて、すぐに忘れてしまいそうな横文字だったのだが、あの飲みの席の数日後、東京への出張となった。「よし、東京の土産としてピエール エルメのドゥミルフィーユを持ち帰ろう!」と心に決めた。これも何かの縁かもしれないと。
場所は、渋谷から表参道へ向かう青山通り沿い。田舎っぺの僕にとっては、その通りを歩いているだけでも、やけに居心地が悪い。
居心地が悪い中、ようやく店までたどり着いてみると、店内から満ち満ちたお洒落感が溢れ出ていて、入りたくても「躊躇」が邪魔をする。
僕は決してお洒落な人間ではないので、その満ち満ちたお洒落感と波長を合わせながら軽やかに入店、なんて出来やしない。そんな中「躊躇」をどこかに追いやってくれたのは、お土産でギャフンと言わせたいという「意地」であった。
「躊躇」を追いやったその「意地」も、店内の洗練され過ぎたお洒落な様子に出くわしてからは、どこかで影を潜めていた。
注文をして会計を済ますまで、気取った店員さんに「田舎っぺでお洒落に無縁なお客様には、販売できないことになっております。申し訳ございません。こちらも販売したいお客様像みたいなものがございますから」なんて言われるんじゃないかと、ビクビクしていた。
そんな夢のようなことは起きるわけがなく、なんとか普通に購入できた。(当たり前だ)
こうして無事に店を出たのだが、何故かひどく疲れきっていた。これから大阪まで帰れるだろうか、というぐらいに。
これが噂のピエールエルメのドゥミルフィーユだ。
妻は「あなたのセンスから、このお土産にたどり着くなんて、奇跡に近い」と、人をバカにしてるような発言をしながら、うまいうまいと食べていた。
確かに美味かった。濃密をさらに濃密にしたような、それでいて押し付けがましくない、そんな「素晴らしい濃さ」がある。賞味期限が当日まで、というのも変なものを使っていない証だ。
「ピエール エルメ の ドゥミルフィーユは素晴らしいよね」と、僕も何かの機会で発言してみよう。
1個 約860円。お試しあれ!